1.はじめに
今回のレポートはキーワード、アスベストと活性酸素について、それらが人体でどのように関わっていて影響を及ぼすのかを、二つの文献を資料とし調べていく。
2.選択したキーワード
「アスベスト」「活性酸素」
3.選択した論文の内容の概略
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アスベストの物理化学的諸性質と生体影響
著者 大槻剛己
THE LUNG
perspectives vol.14 no3 (p311-315)
アスベストは固有の鉱物を指すのではなく、一群の総称である。大きく分類すると、角閃石族と蛇紋石族に分けられ、細分すると6種類の鉱物が含まれる。(表1)
またこの6種類の鉱物のうち、顕微鏡レベルで長さと幅の比が3以上のものをアスベスト繊維としている。
蛇紋石族には、クリソタイル(白石綿)のみが含まれる。一方、角閃石族には、クロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)、アンソフィライト、トレモライト、アクチノライトが含まれる。組成式にも示されているが、多くは鉄を含む構成となっている。またクリソタイルでも若干の鉄含有が認められるようである。
アスベストが大量に使用された理由はアスベストの耐熱性や拡張力、耐摩擦性、断熱・防音性、耐薬剤性、絶縁性などの特徴が他に変えようの無かったからだ。しかしアスベスト繊維は粉砕したときに縦に裂け、高いアスペクト比を保ったまま細い繊維となり、それが鼻腔から気管・気管支までにかけての繊毛に捕獲されず肺胞までにたどり着く要因となる。
アスベストの生体影響については、代表的な繊維化の変化として石綿肺、悪性腫瘍として肺癌、悪性中皮腫、その他の関連疾患として、びまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水、円形無気肺、胸膜プラークなどがあげられる。
肺胞上皮細胞や胸膜中皮細胞にアスベスト繊維を曝露する場合には、主として、アスベストに含まれる鉄によってフェントン反応が起こり、活性酸素種の産生が誘導される。これはDNA障害が惹起するとともに、ミトコンドリア系のアポトーシスシグナル経路の活性化を誘導する。慢性低濃度反復曝露と体内繋留アスベスト繊維による慢性的な生体反応のなかで、DNA障害が細胞に対して致死的でない場合や細胞側の生存への方向性として遺伝子変化が伴われるような場合には、これらの細胞は付加的遺伝子を伴ったまま長期に体内に生存するようになり、癌発生の母体となるであろうと想定できる。
アスベストや珪酸は免疫系にも影響を与え、その端緒は珪酸曝露の疾病である珪肺症においてCaplan症候群の慢性間接リウマチの合併や強皮症や全身性エリテマトーゼス(SLE)の合併が知られている。珪肺症における自己認識T細胞のアポトーシスに強く関連するFas分子についての検討によると、Fas媒介アポトーシスが阻害されている一群と、逆に亢進している一群のリンパ球分画の存在が想定される。曝露当初は後者が多いが、次第になんらかの原因で、Fas分子の異常調節を来たし、Fas媒介アポトーシス抵抗性で、おそらくは自己認識クローンを含むような一群が生じるのではないかと考えている。加えてシリカは早期のT細胞活性化抗原であるCD69を緩徐ながら誘導することが判明し、このことと照合して、珪肺症例のCD4?25?制御性T細胞が、これら慢性活性化T細胞に置換されるようになり、その結果、自己認識クローンの反応性の増大が生じて、自己免疫疾患の合併が促されるのではないかと想定されている。一方アスベスト曝露の場合、アスベストは化学的なコアには珪酸が存在するので、免疫系への影響は同様なのか成人T細胞性白血病/リンパ腫ウイルス不死化ヒト多クローン性T細胞株MT−2を用いて検討を行ってみた。高濃度のクリソタイルの曝露では肺胞上皮細胞や胸膜中皮細胞と同様に活性酸素種の産生とミトコンドリア系アポトーシス経路の活性化による細胞死が導かれ、抗酸化剤の抑制効果も確認できた。この細胞株を低濃度長期曝露するとクリソタイル誘導アポトーシス抵抗性亜株が樹立された。検討するとサイトカインではinterleukin-10の高産生が認められ、アポトーシス関連遺伝子/分子発現では、Bcl-2の亢進と、Baxの低下が確認された。アスベストはスーパー抗原様作用を有していて、それと合致するかのように、石綿肺症や中皮腫の症例では末梢T細胞の受容体Vβレパトアの発現が非クローン性に多種多彩に高発現になっている結果が得られた。制御性T細胞についてアスベストがその機能の亢進をもたらすと考えると腫瘍進展の加速化に重要な役割があると言うことになり、反対に制御性T細胞の機能を若干減弱するような手立てを講じることにより疾病細胞/分子予防的方法の開発につながるよう考えている。このことは珪酸とアスベストなどの珪酸塩が、制御性T細胞に関しては逆の方向に作用している可能性を示している。
A
アスベストによる中皮腫発癌の分子機構
著者 高田礼子
医学のあゆみ vol.219 no11-12(p817-820)
中皮由来の悪性腫瘍である中皮腫の原因の多くはアスベストであるといわれている。アスベストの発癌に関わる因子としては吸入曝露量や繊維サイズ、体内滞留性などが知られている。アスベスト繊維の表面正常は生体影響に関連し、とくに角閃石族のクロシドライトでは繊維表面の鉄がフリーラジカル産生を促進し、DNA損傷や遺伝子変異に関与するとされている。アスベストは発癌過程においてイニシエーションだけでなく、プロモーションにも関与し、次のように直接的作用と間接的作用があると考えられている。
直接的作用…繊維から生じるフリーラジカルによるDNA損傷や細胞内に取り込まれた繊維が細胞分裂装置の紡錘体に作用して惹起される染色体異常、繊維の細胞への物理的刺激により転写因子を活性化することで、細胞増殖などに関与する。
間接的作用…滞留性の高い長繊維がマクロファージに不完全に貪食されて炎症が惹起された結果、マクロファージ、好中球などの炎症細胞が放出する活性酸素、活性窒素種を介して生じる細胞のDNA損傷などがある。さらに炎症に伴って産生されるTGF−α」、TGF−β、PDGF−Aなどの細胞増殖遺伝子の刺激も受け変異細胞の増殖が蓄積されて癌化する多段階発癌過程をとると考えられる。
ヒト中皮腫では染色体の1p、3p、6q、9p、22qなど特定領域の欠失などの構造異常が高頻度に複数個所に認められる。欠失領域のうち、9p21には癌抑制遺伝子p16,p14が存在する。p16はRB蛋白を介する経路により細胞周期を制御し、p14はp53蛋白を介する経路により細胞周期の制御やアポトーシス誘導に関与している。ヒト中皮腫ではその両方が対立遺伝子の欠失が多く見られる。その結果RB、p53の活性調節機構の破綻により細胞周期制御の異常が生じ、DNA損傷が修復されないままDNA複製、細胞分裂が起こり、アポトーシスが誘導されずに異常な細胞が増殖しつづけることが癌化に関与すると考えられる。22q12には神経線維腫症の癌抑制遺伝子であるNf2が存在する。ヒト中皮腫ではNf2の一方の対立遺伝子の微小変異やスプライシング異常による不活化と、もう一方の対立遺伝子の欠失によるLOHが頻繁に認められる。その結果、細胞増殖が促進されることが腫瘍化に関与すると考えられている。
アスベスト曝露実験によるラット中皮腫ではヒトの中皮腫で染色体の欠失が頻繁にみられる領域と相同な領域の異常がみられたがNf2遺伝子の変異はみとめられていない。一方マウスではNf2とp53の遺伝子改変マウスを用いた実験が報告されている。Nf2ヘテロ接合性マウスにクロシドライトを腹腔ないに注入すると、中皮腫を発生したすべての動物でNf2のLOHによる両方の対立遺伝子の不活性化がみられ、高頻度にp16、p19(ヒトのp14に相当)のhomozygous deletionもみられた。p19の欠失の無い腫瘍でp53が不活化され相反した結果が認められた。これはヒト腫瘍細胞株でも確認されたため、p53を介する細胞周期制御の異常によりアスベストによるDNA損傷が修復されずに細胞が分裂する可能性が考えられた。Nf2ヘテロ接合性マウスではp16とNf2の欠失によるRBの調節異常により、細胞周期の進行が促進されることも考えられた。このようにNf2ヘテロ接合性マウスではヒトの中皮腫に特徴的な遺伝子異常が再現されており、動物モデルとして新規治療薬開発への応用などが期待できる。
4.選んだ論文の内容と、ビデオの内容から、自分自身で考えたことを、将来医師になる目で捉えた考察
ビデオをみて、アスベストの危険性をもっと早くから認知し、中皮腫や肺癌などとの関連性が研究されていればここまでの問題にはならなかったのではないだろうかと感じた。企業側は危険性に気付いていながらも利益を優先させ、問題を隠蔽してきた。そして事態が深刻になって大きな社会問題となった。今後このような事が起きないよう、要因を解明し対策をとる必要がある。
今回のテーマ、選択した論文よりアスベストと活性酸素の二つの関係性について調べた。具体的な機構としてはアスベストが体内に入るとフェントン反応やマクロファージによる不完全な貪食によって活性酸素が生じる。そして活性酸素は細胞内に入りDNAを酸化して損傷させる。DNA損傷が続くと遺伝子変異・欠失が蓄積し細胞が癌化し中皮腫の発生に至る、という事が理解できた。
現在アスベストが原因と考えられる死亡者数は2000人を越えており、その数は増え続け2040年までには10万人を越えるとされている。将来医師としてこの問題に向き合う場合できること、すべきことは研究である。アスベストによる中皮腫などの疾病の発生機構を分析し、それらの疾病の早期診断、治療法、予防法を開発する。また、アスベストの分析は「第二のアスベスト」を生み出さないためにアスベスト代替繊維による有害性、健康影響リスクの予測評価やより安全な繊維の開発にも重要である。
5.まとめ
普段読む機会のない科学論文を読んでみて、難しく読みづらいと思ったが興味深くもあった。これまでに勉強してきた知識を必要とすることもあり、基礎の勉強の大事さを感じた。また医学は臨床以外にもさまざまなアプローチがあり、研究の意義、重要さに気付かされた。将来的な勉強とは今のように教科書で勉強するのでなく、論文などから新しい知識を得ていくことになるので、今回はいいきっかけになったと思う。